第3回レポート 脇屋 友詞 氏×千住 明 氏 
料理人、作曲家。『演出×サプライズ』が生み出す笑顔、喜びとは。


2019.10.1 / Report

文責:事務局 松田龍太郎(株式会社oiseau)

「まず、僕たちの出会いもさることながら、そもそも『食』という業界に出会い、どのようにいまの職業にたどり着いたのかを、受講生皆さんに知っていただくべきだ。そして僕や千住さんの、いまを生み出している原点がどこにあるかを、最初に知っていただきたい」と、事前打ち合わせで脇屋シェフから提案いただいた、お二人の食との出会いのきっかけを話すヒント。そこには、数多くの実績とノウハウを持つ二人が、今の職業につくために、どんな道のりがあったのかのスタート地点であり、一方で、彼らの現在の職業へのこだわりとプライドを感じた言葉であった。僕は非常に興味深く感じた。

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「北海道で生まれた僕は、まず父親に、小さい頃から料理に向いていると言われた。もともと勉強が嫌いだったが、それ以上に僕自身も料理が大好きだった。そこから中学卒業し、調理師専門学校も知らず、15歳の時に、赤坂の山王飯店にはいったのが僕の料理人としてのスタート。そこから今年で61歳。僕が心から楽しいと思ってきたこと、そして長く向き合えたことに感謝している」(脇屋シェフ)

脇屋シェフの、料理人の道との出会いは、非常にオーソドックス。けれどその長所を素直に、大きく広げ、羽ばたく感性は計り知れない。単なる中華のシェフではなく、日本を代表する中華のシェフになり得たのだ。

一方、今回のサブゲストとして登場したのは、作曲家の千住明氏。これまでも数多くの音楽を作り、奏でる人間としての実績はもちろんのこと、脇屋シェフとともに、フジテレビ系列「アイアンシェフ」、35歳以下の料理人コンテスト「RED U-35 審査委員」として活躍。また今回、丸ビルで展開していた恋愛ジュース(※2019年9月9日(月)~16日(月・祝) 11:00~21:00開催済 https://spice.eplus.jp/articles/252023)を作りあげた東京藝大の学生をサポートするなど、非常に多忙な毎日をすごされている。

その千住氏がとても興味深い言葉を発した。

「僕自身、音楽家となって35年を迎える。けれど、音楽家にならなかったら、もしかしたら料理人なっていたと思う。実は、料理も音楽も『時間を使っている』職種で、たとえば、音楽を出す順番を決めたり、その場面の演出を考えたり、その時代に合うような”旬”を大事にしたりと、扱うものは違えど本質は一緒なのです。多分、そういう『仕組み』や『成り立ち』に興味があるのが、この職業になり得た大事なポイントなのかもしれません。」(千住氏)



 脇屋シェフと千住氏のタッグ、トークセッションの中身には、料理人と音楽家という、特殊で職人気質の職種において、共通に持ちうる「感性=センス」はなんなのだろうかという部分に、兆しが見えた瞬間だった。つまり、いかに自分の職業を「分解」し、「合成」し、「昇華」し、たとえ異業種、異文化の職種同士だとしても、「仕組み」や「成り立ち」に共通項があれば、それを「共通解」として共有できる言語になるのだということだ。

例えば、シャンパンで有名なブランド「KRUG/クリュッグ」でのイベント。イベントに参加した人たちが、都心から1時間離れた閑静な植物園で、シャンパンから醸し出された音を聞き、そこで感じる音を、ピアノで自ら4つの音を引いてもらう企画を実施した。その皆が弾いた4つの音を、参加した12人分、千住氏がそれを順番に合わせて、一つの曲として作曲し、その曲の合間に、脇屋シェフが、その場で次々と料理を提供する状況を作り上げたのだ。

とても贅沢な環境であることは間違いないが、熟成されて生み出された「シャンパン」と同じように、その場で生み出された曲自体も、丁寧に作り上げたことは、まさに「熟成の瞬間」と言えるかもしれない。

「12人からもらった、それぞれの4つの音。『それを料理する』のは僕の作業でした。これは、音楽の仕組みを知っている人ができる作業です。これは料理もシャンパンを作る行為に似ていて、仕組みがあるということです。」

しかし、その仕組みがわかったところで、贅沢な環境を作り上げることはできない。その仕組みのカラクリは、実は「お客様に対するサプライズ」という演出なのだ。「お客様を驚かせる、喜ばせる」ということがサプライズの源。だからどのように喜ばせるかが、発想のきっかけになる。

一方で脇屋シェフも千住氏の独創に負けない「サプライズ」を披露した。例えば北京ダックの提供の仕方。一番美味しい喉仏の下の部分だけを、最後に油をかけて食べてもらうのだが、イベントでは、調理の8割をお店で実施し、最後の仕上げを会場で行なったのだ。

「通常であればそんなことはやらない。むしろ、まさかその場でやるの?というくらい。現場では大変珍しく、お客様にも喜んでもらったのを覚えている。」

シェフが、作曲家が、自分で楽しいということだけではなく、誰でも楽しく、そして幸せな空間を演出し、その場をとても美味しい行為が生まれる場所へ生まれ変わらせたのである。

「僕が2年ほどRED U-35でオープ二ングの曲含め、審査委員を務めさせていただきました。これまで料理人を含め、音楽家などプロの卵たちを見てきましたが、これだ!と思う良い人は、最初の一言、最初の行動で全てがわかるのです。僕はその感覚を研ぎ澄ましながら、やらせていただきましたが、その感性は間違ってはおらず、その物事を作ろうという人の魂や感じ方は、変わらない。その力量を測るという行為は、創作するということ人間にとって、もう一つの言葉だと思いました。」(千住氏)

彼が当時、RED EGG(ファイナルグランプリ優秀者)に到達した若手シェフを見たときに感じたことだ。

「特に中華の油をつかう料理を、食べる人の前でつくることはほとんどない。けれど、そうしたシズル感があれば、食べたくなる気持ちになる。それが料理のすごいところだ。料理を作る過程を見ているから、食べたいない、ああやって作るのか?と想像力を掻き立てることができるのだ。」(脇屋シェフ)

すでに調理は、食事をする時間を演出するキーアクションとなっている。

“作っている姿が見えない職場やキッチンは無くなるかもしれない”そんな気持ちに駆られ、「食べたい」というモチベーションを生み出す装置としてキッチンはあるのだ。

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千住氏、そして脇屋シェフの言葉から、「感性=センス」を感じられずにはいられない。特にこれは先天性ではなく、お二人が重ねてきた「飽くなき反復活動」とその上に培った何十年という実績とノウハウに裏付けされたものであることは間違いないと思う。

また「料理人」と「作曲家」の相容れない要素をもつ二人が、感覚として、非常に似ていて、それでいて感性を自ら磨き、研ぎ澄まされた刃物のような、鋭利なアイディア、そしてサプライズを生み出すのだと感じている。単に飲食業界を見回したところで、いまは答えはない。異業種といえども、より仕組みや考えを共通する人物と出会い、自ら達成すべき目標に対して、シンプルに、深めていくことが重要だと、それぞれの業界のトップは気づいている。