第4回 レポート 笹島 保弘氏 × 佐藤 裕久氏
賭けるべき“飲食店労力”とは?
人材不足ではなく、「働きたくなる職場づくりへ」


2019.10.2 / Report
文責:事務局 松田龍太郎(株式会社oiseau)

イルギオットーネ 笹島シェフ、そしてバルニバービ佐藤社長をゲストにお呼びし、昨今の「飲食業界に続く、慢性的な人材不足」について話題をはじめたとき、佐藤社長より、笹島シェフに対して、質問が飛んだ。
「そもそも笹島シェフのような人っているかな?(笑)僕は別の業種から33歳で飲食業に入りました。もともと京都大学の横でレストランを大正時代からやっていたおばあちゃんがいましたが、実は料理を作るのが大好きな子供だったんです。けれど笹島シェフとはちがいます。笹島シェフは良い意味で「(料理に)とりつかれた人」。僕はその逆で、何かを突き詰めていくのではなく、あまのじゃくで、いろんなアイディアを考え。「妄想」が思い浮かぶ人間です。笹島シェフのように、これや!というよりは、いろんな料理や手法を思い浮かべることが生きがいでした。」

笹島シェフの生きがいに、「笹島シェフらしさ」だけでなく、「笹島シェフならでは」の良さと、難しさを感じていたのだと思う。けれど、笹島シェフは、そういうコメントこそ、今回ゲストを依頼した由来と聞いた。
「僕は従業員に同じような対価として、他のことを忘れるくらい、やりがいってなんだろうかなって思わせ、やりたいことをやらせてあげる(手法をとっている)。自分の店のように、僕の店で料理を作ってもらう。その自由を与える意識を持っています。僕のお店をもちろん辞める子もいますよ。卒業生が、20店舗ほどオーナーレストランとして、独立しています。別に輩出している、とは言いませんが、うちのお店にいる時と変わらない、成長して提供している。マニュアル作って、オペレーション作ってというとことはなく、適材適所に僕が指示して、そこから自由にさせることを大事にしています。だから辞めた後も、僕の店に遊び来てくれる、そんな存在でいられるのだと思います。『笹島さんの意図が(自分のお店をやってみて)わかった』と言われます。」

人材不足。

そのとき佐藤社長が思わず、「笹島シェフの指導の元、独立するできるスキルを学んだ上で、どんどん辞めていきません??」という鋭い質問がでた。


「はい、どんどん辞めていきます(苦笑)けれど、自分もそうでした。自分も修行したお店で「育ててもらった」という意識がありました。自分のところで留めておくのはもったいないと思っていました。それこそ「還元していきたい」と思うようになったんです。おおよそ独立を阻止したことはなく、逆に出店するスタッフのお店の情報を聞きながらアドバイスするくらいです。「僕はこうしたほうがいい」って。正直、20数店の卒業生がいますが、彼らがお店を経営しているのは、実は嬉しくて、自分の中でモチベーションにつながっているんですよ。「辞めさせない」というのは、彼らのためにもよくないし、自分もそこが大事だと思っている。」

この時、僕は笹島シェフが、飲食業界における自らの立ち位置を変化させながら、一方で、料理作りの生粋のシェフとして「変わらない、変えてはいけない自分」を見出しているのはと感じた。逆に、笹島さんのシェフの下にいたら「独立できるぞ」と思うと、人が集まるという発想。佐藤社長は「すごいモチベーション」とあるが、そもそも、そうした「働きたくなる場所」「就職したい企業」のあるべき姿なのではと。


そもそもなんで飲食店独立がゴールなのか。なにより稼ぎたい。
自分のしたいことをする。
飲食店をやりたい人とする。

けれど、この条件はいわゆる「飲食企業」では、融通が効かないはずだ。

一方で、飲食企業として、単に独立して終わりではなく、独立前提で考えた場合のフォローの仕方があると佐藤社長。例えば「仕入れ」「家賃」「病気、怪我」。これから独立したら起こりえるであろう「変動費」について、バルニバービ社は、バルニバービ出身者を守って行こうという主旨で、バルニバービ社と同様の仕入れ価格や特別家賃費用などを、独立希望者に提供するなどしている。

佐藤社長は、「当たり前のこととして、優秀な人ほど辞めるんです。けれど、そうした人材を手放すことだけではなく、企業として、グループとしてのボリュームで守ることができるんです。」

佐藤社長は自らのプロジェクトをベースに、その例を話しだした。

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最近、独立した人間がいました。その出店費用として2000万投資しました。彼が出資したのは200−300万です。にもかかわらず、彼のお店です。家賃、仕入れのカバーをバルニバービでサポートして言います。そしてかれは血眼になって、売り上げを爆発的にあげています。ほんとうちにいるときにはない、モチベーションで、売り上げを上げています。

僕らは投資という話ではなく、家賃をいただきながらをやっているので、手厚くサポートをしています。独立しているのに、独立していない。そんな状況を作りたい。

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僕らは飲食業5大要素(フード、人材、賃料、減価償却、光熱費)ですよね。フードコストを下げますか?お客さんが離れていきますよね。人材費用は?給料を下げて行きますか?どちらも触れるのはできないと思います。けれど家賃と減価償却は触れます。

例えば、2019年5月に出来上がった淡路島のお店です。 この物件は、コンビニはなく、一件の商店街もありません。土地はひろいです。この広大な土地を安く購入しました。一方で、建物にお金をかけました。20年、月額100万が家賃と減価償却にあたります。一般的には家賃と減価償却で20%、営業利益7-8%ですかね。ここだと、月100万弱で、月商2000万の売り上げです。つまり、「10%」です。家賃は下げられる感覚です。こんな何もない場所に、僕らは人を集めています。だから全体の比率から給与を上げられます。この店長は、京都の祇園で店をやっていた人間でしたが、理由があり、そのお店を閉めることになってしまいました。現場を見た時に「僕がやる」といって、家族と共に引越しして、気合を入れてやっています。つまり、利益の出し方を変えていくことが重要でした。そういうイメージを、スタッフに「ビジネスの作り方」を考えてもらっています。

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笹島シェフが佐藤社長の、飲食人材をどのように自らのビジネスにつなげ、そしてグループとしてフォローしていくさまを話をした際に、ふと言葉にした。

「今日の話題は、佐藤社長とやりたいという内容でした。以前、イベントで、佐藤さんのお店に行った時に、とにかく佐藤さんのシェフはキラキラしている、楽しそうな雰囲気でした。もちろん、飲食大好きというひとではないし、独立がすべてではない。けれど、そうした人たち含めて、みんな幸せそうでした。

いままでの飲食業界だと、それ以外はダメという感覚があったです。そもそもそういうイメージを開いて行かないといけない。

僕のところにいたスタッフも、何人かバルニバービに移籍しました。そのスタッフたちは、今まで専門料理で、海外まで修行した人たちです。けれど自分たちが決めて(転職しました)。だからこそ、僕のお店と、佐藤さんのお店の違いもさることながら、飲食企業として、人材不足の考えた方を変えないといけないと思うようになったんです」と。


その言葉を聞いた佐藤社長は、
「僕らは今、「未来をみれるかどうか」、そして「自分のことのような仕事のやり方をしているかどうか」を見る時代になったと思っています。その先には、「なりたい自分になる」という覚悟が必要な会社にする、そういう場を作り上げることが大切だと思っています。」

そして笹島シェフが最後に、

「最近、レストランでは、お客さんが自らいろいろ情報を掴み、不思議な状況が起きていると感じています。写真を撮ることが目的で料理を食べにいくのがレストランでないですよね。自分がどんなお店にいきたいのかでそのお店を選んでいるはずなんです、レストランというのは。

そして必ず選択肢に残るお店は「自分の胃袋を掴まれたお店」です。高級レストランではなく、いきつけのラーメン屋ようなところです。もちろん話題性も大事ですが、やっぱり「美味しいお店」がとても大事だと思っています。やっぱりレストランは「うまいもん屋」でなくてはならず、東京でも地方でも変わりないと思っています。

ちなみに、今日の試食プレートで鳥取のもう一つの名物「蟹」を使いたかったのですが、あえてボロネーゼにしました。ボロネーゼ使っている食材は「人が美味しいと思っている食材」なんですね。実は「美味しい食事作りのルール」があります。つまり、僕が作ったものが美味しいのではなく、「美味しいと思う食材の組み合わせ」を使っているから美味しく感じたはずです。僕のお店ではふだんミートソースは使わず、例えばボロネーゼをだすと「こんなミートソースをだしやがって、、」と言われると思います。けれど、僕は「それはうちのお店ではだせない」というしかないし、そういうお店が大事になってくるのではと思っています。そして、そんなお店を作るという意味では、僕の場合は、人材不足とあろうとも、自分が先陣を切って料理から全てやります。がむしゃらにやっていると見ている人がいるんです。

もちろん飲食業界は非常に人材不足です。

 実は最近、京都店の休日を増やしました。僕らのような、「飲食業界ではそんなの当たり前」という世代は、これからできる範囲で改善して行かなきゃならない。また、うちの会社では、キッチンふくめ女性スタッフが多いと思っています。たとえば男女スタッフがいたとしても、大きな鍋があったら、男の子が持てと言いませんか?当初は、どうして?という男性、女性スタッフの声がありましたが、最近うちのお店では、女性と対等に仕事をする体制を作りつつあります。けれど、こうした状況作りも非常に大切だと思って、そうしないと飲食業界では働いていけない状況が生まれると思います。小さなことですが、コツコツとやり切ることが大切だと思っています。

佐藤社長
「僕は「やってはいけないこと」を言います。それは「流行り」からは背を向けましょう。

最近、沖縄の、とある物件を見に行きました。その時、スタッフにやりたい子いない?という話をした時に、誰も手をあげなかった。やりたい子がいなかった。別の地域でも同じことがあった。また、「流行りの商業施設」もそうです。

もちろん、出店をするということは、人が必要です。人材不足と言いますが、僕は飲食店を逆に、閉めるべきだと思っています。

もちろん、閉めるべきお店は「お客さんを幸せにしていないお店」「収益が上がっていないお店」です。出店費用もかかるはずです。借金や残損していることも、正直返済できるはずです。僕も5000万かけたお店を8ヶ月で2件、締めました。4年続ければ、返済できるかもしれないけど、そこにかけるべき労力は凄まじいものです。現場の人間がやりたいこと、そこが重要です。目指すべきは求人ゼロ。お金払って働く場所ではなくて、「働きたくなる場所」を作ることだと思っています。だから流行りで飲食店は作れないし、そういう場所ほど、消費は恐ろしく早い。」

笹島シェフ、そして佐藤社長の、それぞれのポジションは全く異なる。けれど、料理を作るシェフ、飲食店を経営するオーナーとして、一人ではできないことを、二人目、三人目とつなぎ、多くのスタッフを育てながら、「つなげている」様が非常に印象深く残った。単に作り上げるだけではなく、そうした経営体をもちながら、それを商売にしていくこと、そしてそこに関わった人とともに成長し、モチベーションをあげていくことに興味を持った。

「飲食店労力」。美味しい食材、素晴らしいスタッフが日本にいるとすれば、お店を継続させていくスキームがまだまだあるのではないかと考える。

 

以上