第5回 レポート 陣内 孝也氏 × 荒井 眞由美氏
ホテル事業からみる、レストランひらまつの
ホスピタリティの醍醐味。


2019.11.21 / Report
文責:事務局 松田龍太郎(株式会社oiseau)

 1982年4月、西麻布に「ひらまつ亭」という1軒のレストランから船出した事業は、そのレストラン事業を基盤に「ウエディング事業」「ケータリング事業」「ワイン事業」「ホテル事業」と5つの事業まで発展、すでに東証一部上場の高級レストラン企業として多くのスタッフを育て上げ、その礎を、「ひらまつホスピタリティ」と呼ばれる独特な教育手法から成り立っている。

もちろん、「株式会社ひらまつ」の創業者である平松宏之シェフがコツコツと積み上げた実績もさることながら、通常のオーナーシェフ経営では、想像ができない事業展開をされてきたのが驚きだ。

その真髄に、今回のメインゲスト陣内氏、サブゲスト荒井氏からうかがった、当時のひらまつの状況は、意外にもアナログであった。
「当時、私たちは、シェフの平松に呼ばれて、よく『合宿』をしました。そこでは、従業員が10名ほどよばれ、膝を付き合わせて、話し合ったのを覚えています。その際に印象に残ったのは「飲食業界の地位の向上を目指したい」という、現在経営理念にも反映しておりますが、『食文化の普及に努め、心豊かな時を提供するとともに、日本の伝統的な「もてなす心」を世界に発信する企業であり続ける』という部分の大元(おおもと)になっていると思います。その部分を平松も非常に気にされていて、料理をすること以上に、とても力強く私たちに伝えようとしていました。それがあったからこそ、いまの『ひらまつ』があるのだと思います」(陣内氏)

 この、レストランひらまつの方向性は、5つに発展している事業の発展に紐づくということがわかった。それは「お客様に相対する時間が長い」ということだ。そのポイントは「ホテル事業」である。

「私たちは、『ようこそ、お越しになりました。』から『またどうぞ、お待ちしております。』という言葉を発するまで、おおよそ半日ほど、お客様と一緒に過ごす時間があります。これは一般のレストランでは生まれない時間で、その時間こそが、お客様とお話をして、その接し方をどのように提供するかが重要です」と、荒井氏がおっしゃった。

 荒井氏は、現在THE HIRAMATSU HOTELS&RESORTS熱海にて女将に従事している。ホテルでお客様とともに生み出す時間=提供サービスにどんなコツがあるのかという部分についても、先ほどの『合宿』ではないが、もっとリアルで「アナログ」な“もてなし”が行われていた。

「ホスピタリティ(おもてなし)は、見えない気持ちである。」

 お客様が欲しいとおもったお土産を、わざわざ地元のお店に駆けつけて購入する。そしてそのお客様に喜ばれ、さらに地元のお店とも、良い意味でネットワークをつくり、コミュニケーションを紡ぎ出していく。だからこそ、荒井氏は積極的にお客様の要望に応えるために「好奇心」を持ちながら、熱海という場所を通じて、レストランにはないサービスを提供している違いない。

「レストランの新人ホールスタッフに、ホテルのオペレーションに入ってもらい、積極的にお客様と話をして、接客サービスのトレーニングをすることがあります。お客様にとっては新人だろうが女将だろうが関係ない。プロと思い接してくる感覚は非常に大切で、そのトレーニングによって、新人も飛躍的に成長することがあるんですよ」と。

 こうして育まれる「ひらまつホスピタリティ」は、人から人へ伝播し、新たな事業へと変革するさまは、単にレストラン事業の横展開、多店舗展開とは異なる事例で、非常に感慨深い。

 またホテル事業においてもレストラン事業も大きく関わっており、特に地方食材の生かし方は非常に参考になる。
「ここに来るお客様は、おいしいものを食べられる方が多いので、『地域食材を、ひらまつで料理されていただくことが楽しみだ』という声を聞きます。また料理人にも日々苦労しながら食材を探し、向き合いながらも、例えば熱海の食材以外の食材を使って、熱海の食材が引き立つように料理している場合もあります。

 やはり、熱海の地元に住んでいる人しかわからない素敵な食材がたくさんあって、それを活用して美味しい料理もあるということを、それこそ他のホテルとも連携して、もっと、お客様に伝えていきたいという方向性が生まれてきています。これはおそらく、地方における食のあり方、PRに直結していますし、なにより、受講生みなさんのレストランでも応用できる手法です。」(荒井氏)


 私たちが地方を訪ね、宿泊する時、ホテルを探すことと、レストランを探すことが通常ではあるが、その宿泊するホテルで、どのくらい地元の食材で、かつ美味しく出会う機会があるのだろうか。

 良いベットだけではなく、宿泊するホテルのレストランで出会う一皿の食事が、かけがえのない記憶となるはず。そうした「おもてなし」を提供する株式会社ひらまつの良さが、食を通じた部分で、接すれば接するほど見えてくるのは、1982年、西麻布で生まれた一軒のお店からであることは間違いないはずだ。

創業者平松シェフが見出したホスピタリティの真髄。まだまだひらまつの面白さは計り知れない。