第6回 レポート 野崎 洋光 氏 × 石渡  久師氏 
情報が溢れている時代だからこそ、情報を捨てる勇気を持て。


2019.12.8 / Report
文責:事務局 松田龍太郎(株式会社oiseau)
「みなさん、和食のことをどのくらい理解されていますか?なぜ、和食の基本は『だし』をとることからはじまるのでしょうか。どれもこれも「知識」の一部。『知らないことを言えない時代』だからこそ、その本質が見えなくなるのです。いま情報が溢れている時代だからこそ、情報を捨てる勇気をぜひ持ってください。」

と、第6回第1部メインゲストである、西麻布「分とく山」総料理長、野崎洋光氏が、会の終盤に受講生に対して投げかけた言葉だった。

地方創生、働き方改革、6次産業を踏まえた加工品開発。
ここ数年、日本で発生した飲食業界に関わるキーワードだ。単にレストランを運営していくだけではなく、「サスティナブル」「SDGs」といった社会的意義をもった取り組みに対応し始めている若手料理人が脚光を浴びている。ただ一方で、1−2年という短い単位で流行もはやく、一方で、閉店する店の数もここ数年では最大と言われている。情報が溢れているからこそ、どのように取り入れていくかが料理人の、飲食店の次のステップとして重要になり始めている。

しかし野崎総料理長は、そこを真っ向から否定するのではなく、「ちょっと待ちなさい。」と言わんとしている。「溢れているからこそ、捨てるべき理由」とは。

例えば、野崎総料理長は、2020年夏に訪れる「東京オリンピック2020」に向けて、料理の監修者の一人として参画しており、1日あたり45,000食(正確には、朝・昼・晩、3食15,000人分を毎日作り上げる算段)の食事を提供するために、レシピ作りや食材の調達、試食を繰り返している。

「日本料理というのは、和食に限らず、カレーライスやラーメン、餃子も日本料理です」と、日本文化で生まれた特有の料理、それが日本料理として捉えられているのだ。もちろん無形文化遺産としての「和食」にスポットが当てられるべきではあるが、たとえば必ずしも京都の和食料理が古き良き和食ではなく、歴史で紐解けば江戸で生まれた和食料理の方が古く、もっというと、日々私たちが口にする「家庭料理」こそが、日本料理の真髄であり、歴史を積み重ねて今があると野崎総料理長は言わんとしていた。

「情報を知ることにより無知を知る」。

だからこそ、「手間暇かけず手軽に食べられる家庭料理」や「居酒屋で気軽に酒のあて」としてとる料理も、「現代の日本料理」といえるのだろう。それこそ日本料理であると捉えた野崎総料理長は、現在自らが取り組んでいるオリンピックのレシピをはじめ、日本料理というカテゴリーを捉え直し、いままで受け継いできた情報を「捨てて」、現代風にアレンジしなおしているという感覚を感じたのだ。例えば、この表現は、フレンチスタイルを取り入れたシェフたちが、「イノベーション」としてフレンチでも和食でもなく、まさに「現代の料理」として2019年の今をさらに表現していることに近いのかもしれない。

一方、石渡商店石渡氏の活動は、単なる自社事業を引き続いた後継者としてだけではなく、現代の「働き方」を、ふかひれをはじめとする食品加工業び入れ込みながら、改革を進めているさまは見事だ。たとえば講義で話をされた「トヨタ カイゼン方式」。車メーカーで生まれた働きの改革は、気仙沼で活動する石渡商店でも十分に発揮され、国外に輸出を促す企業に成長している。単に設備投資ではなく「人に投資をして業務改善」しているのが現代らしさを感じる。

 

「僕らはもともと地方出身なので、都会に比べると「田舎臭い」というのは肌に染みている。けれど、いま現代に比べると、地方においても十分に世界に通用する会社として成立し、むしろ地方で活動した方がカッコいいという視点も生まれ始めている。ほんと、ここ数年の動きではあるが、それだけ世の中は、「社会的意義」に基づいた動きや働き方に変化しているのはまちがいない」と野崎総料理長がおっしゃったことは、今回参加している地方からの受講生にとっては有り難いと思う一方で、それだけ「地方でのコト作り」に価値が生まれているという事実が垣間見れる。

だからこそ、石渡氏が「ぜひ皆さんに、産地に来てほしい。産地で感じたことを自らのお客様に対して伝えてほしいと思っています。また海外のお客様も、味もそうだが、欲しがる情報は一緒で、それを直接伝えていくことが一番だと思います」とおっしゃった意図を感じた。地方こそ現場であり、僕らの食卓を支えている大事な場所だ。

 

地方にあるのは「食材」だけではない。食材を生み出す気候や風土、そして食材を栽培し、収穫、東京に運び込んでいる「人」がいる。その人がコトを作り出し、単に売り出すだけではなく、事業をデザインし、都度調査、研究、実施し、そして新たな試みにむけて挑戦していく様が「食・コトデザイン研究所」の狙いでもある。またそうした「現場感覚」というのは、飲食店において、重要項目であり、「お客様に選ばれるお店」としてのクオリティは自ずと上がるはずだ。

 また今回参加した受講生も自主的に「自らの故郷の食材をより多くの人たちに知ってもらおうと、ツアーを組むことになりました。」「地方の食材を多くの人に食べてもらいたいと、流通網を見直し、高速バスを活用した事業を作ります。」「さっそく地域に足をはこび、その地域の食材を活用したメニューを開発、フェアを開催します!」といった活動が、まさに部活動のように、生まれ始めている。彼らが、この学校に集まる「人(あらゆるジャンルの飲食系ゲスト)」「モノ(地域からの食材など)」「コト(正確には情報)」を自らの糧とし、新たなビジネスにつなげ始めているのだ。

 

だからこそ、野崎総料理長がおっしゃった「いま情報が溢れている時代だからこそ、情報を捨てる勇気をぜひ持ってください。」というのは、2020年に対する、飲食に関わる人への熱いメッセージだと思う。単に捨てるのではない、むしろ「手に入れた情報を正確に理解すること」だと思う。正しい情報を手に入れるだけではなく、「正確に理解する」ことこそが、確実にポジティブに変化していく時代を走り、駆け抜けられるのだと思う。

2019年7月より、第6回まで計6回、2名ずつ、合計12名のゲストが発した言葉(=情報)は、まさに「現場の言葉」だ。単に実績、経験ではなく、そこを通じて得られる情報は、珠玉であり、いま同時並行に同じ業界で走っている受講生に与えられるべきものであると感じている。また、受講生のカテゴリーも、飲食点経営者、料理長クラススタッフ、地方活性化をメインに活躍している行政、流通、飲食点経営者のラインナップが、「手に入れるべき情報、手に入れるべきコト」であることは間違いない。